既刊『アンモラルなショート・ショート』より 小説/由美ユメコ
やたら人を巻き込む傾向のある、幼馴染の少女、川中咲のしつこい誘いで俺は、彼女が設立した変な部活に参加させられることになった。昔からやることなすこと突飛のない彼女の保護者的立場として周りから扱われている以上、放って置くわけにもいかなかった、ってやつだ。
いや、強いて言うならば咲が俺に気があるらしい、ということはなんとなく察していたから、そういうのもあって付き合ってやってるっていうのもあるのか
もしれない。そういう訳で、俺はその部活に入った。そこで分かったことだが、部員は俺だけではなかった。もう一人、なんか変な野郎がいたのだ。いわゆる
「やれやれ系」の俺に対極に位置する、「体育会系男子」だった。
そいつの見た目は、男の俺から見てもかなり暑苦しかった。あっさりとした顔立ちに、長身でひょろっとした体型、没個性の容姿を持つ俺のまさに真逆なのだ。
真っ黒で針金のような角刈りに濃い眉毛、日に焼けた浅黒い肌、パッと見て分かるほど盛り上がった分厚い筋肉。なんでこんな奴を入部させたのか疑問に思った
俺は咲に聞くと、彼女はいつものようにハキハキとした声でこう言い放った。
「私は普通の人には興味ないの!」
つまり、そいつは世間でいう所の「普通の人」ではないらしかった。実際、奴は本当に暑苦しい野郎だった。見た目のことだけではない。中身のことだ。某元
テニスプレーヤーを彷彿とさせる、異常なまでに熱血キャラだったのだ。そういう男の存在は、俺のようなヤレヤレ系にとって本当に厄介なものだった。いつも
のように彼女のドタバタに巻き込まれ、つい「やれやれ」とか「仕方がねーな」とか、そういうシーンになると決まって奴が、「気持ちが足りない」とか「全力
で頑張れよ」とか必要以上に鼓舞してくるのである。場合によっては叱責まがいの口調で「どうしてお前はいつもそうなんだよ、死ぬ気でやれよ、死なないからっ」
とか「そこで諦めんなよ」と兎に角もうるさい。いちいち俺の全てにケチをつけるそいつに、俺はいい加減ノイローゼ気味になってきており、もはや幼馴染の咲のこ
となどどうでもよくなりつつあった。いや、正確に言えば彼女に気を回す余裕がなくなったのである。俺はまたいつ奴に説教させるのか、それが怖くてビクビクして
いたのだから。
だが、そんな毎日も1年ほど過ぎて、俺は以前ほど奴に苦手意識を持たなくなった。それが、別に奴がそんなに悪い奴ではないこととか、ただ真面目すぎて不器用な
奴だとか、そういうことが段々分かってきたからかもしれない。俺は気がつくとソイツと一緒に出かけたり、遠出して遊びに行く機会も増えていた。純粋にソイツと一
緒にいると楽しいと思えた。そんな気持ちが、奴にとって友だち以上のものになっていると知ったのは、ある日唐突に告白された時だった。実はずっと友だちとして
振舞ってきたけど、本当は俺のことが好きだったと・・・
川中咲は、教室の窓から見えるお向かいの教室にいる二人の男子を見ながら、ニヤニヤと口を歪ませていた。そんな彼女に、クラスメイトの女子がどうしたのかと声をか
ける。
「うん、物事が思い通りに進んじゃってね、思わず禿萌え上がったわ。あ、私の幼馴染と、あの角刈りのことだけど。うん、脳内で絶対カップルにしたらイケる、って
ぶっちゃけ妄想してたから。」
「え、咲ってあの幼馴染君が好きだったんじゃないの?いつも一緒にいるから、てっきりそうだと思ってたけど・・・」
「うん、好きだよ。人間として。でもね私、普通の人って嫌いなんだ。でも、アイツってなんか普通すぎるでしょ。そこがなんか気に入らなくて。だから、『普通じゃない
禁断の恋愛』に苦悩してる、普通じゃない男にさせてみた」