アラララ!!(又は町の情報屋さんの話)

アンモラルなショート・ショートシリーズWeb初出SS 小説/由美ユメコ

大都会、トーキョーに上京することになった高校生、龍峰三神には秘密があった。それは、この虫も殺さぬ善人面した一方で裏サイト、ドラーズの管理人だったのである。そんなことも知らず、自分だけが裏社会に染まって黒いと思い込んでいる昔からの友人、木田雅臣、そしてやはり自分だけが異形の世界に関わっていると思い込んでいるクラスメイトの曽野原アンリらと平穏な日々を過ごしていた。

「ブクロには、いろんな奴らが集まってくる。頭がキレた奴、頭がキレた奴、そして・・・頭がキレた奴だ。」

つまり、雅臣によると池袋には「頭がおかしい奴」しかいなかった。その中でも、とりわけ頭がヤバイ奴として有名な、二人と出会うことになってしまう。「池袋24時間戦争コンビ」として知られる、違うベクトルにヤバイ奴ら―季節感のないファーコート着た奴と、バーテンのコスプレしてる野郎がいたら気をつけろ―これは池袋の常識であったが、新参者の三神はまだ知らなかったのである。 「おぉい、池袋には、来るなっていったよなァ」

突然三神は背の高いバーテンコスプレ野郎から頭を鷲づかみにされ、電柱に打ち付けられる。どうやら、噂の「情報屋」に間違えられたらしい。一ミリも似てないのに。

「あぁ、よくみたらリンヤじゃねーじゃねぇか。すまん、リンヤに似てるやつみると、無条件に殺しちまうくせがあってな」

「―傷害罪で訴えますよ。あと、眼鏡買ってください。コンタクトでもいいので。あと、早く逮捕されてください。住民に迷惑かかるので」

彼、争島静男はチッと舌打ちすると、肩を怒らせながら通りの向こうへ消える。ホっと胸をなでおろしたところで、今度は後から聞きたくない声が響いた。

「・・・よかったぁ、今回も犠牲になってくれる人がいて。静ちゃんの暴力は洒落にならないからなぁ、ド近眼でよかったよ、本当に。」

怒りまかせに振り返ると、そこには「いかにも自分頭いいですキャラ風」のコーデの男が立っていた。春夏秋冬ファーコート・・・こいつに間違いない。あの情報屋とやらは。

「全く、池袋に来て早々、あなたのせいで酷い目にあいましたよ。ほら、今も頭から血が噴出してるんですよ?この、犠牲者の影でビクついているへタレ情報屋のせいで」

「いやいや、ちょっと待って。僕はねぇ、本当に使える存在だよ。君にとって、有用な情報を提供してあげることだってできるんだから―どうだい、君には格安で情報を譲ってあげるからさ、それでチャラってことにしてくれない?」

「とりあえず、入院費ください」

彼が始めに提供した「情報」は、「わりと空いているのですぐ入院でき、一人ひとりに時間を割いてくれる病院」だった。要は、過疎ってる郊外の病院だった。それからしばらくして退院した僕の元に、ふたたび情報屋のリンヤが現われる。

「やぁ、退院したんだね。君に、とっておきの情報があるんだ。どうかな、君の親友の木田くんのことだけど・・・」

僕は興味がない、と突っぱねたが、あまりにもしつこいのでついつい話を聞いてしまった。それは、「実は先祖代々の禿体質をかなり気にしており、日課は朝起きてすぐの鏡での頭髪チェックである」というどうでもいい知識だった。

その後もリンヤは「いい情報がある」といいながら何かと僕につきまとってきた。「本当はカンガルーのお腹の中は臭い」とか、「歌の下手なカナリヤは一生独身なんだって」とか、某CMの豆○ば的な妙にむかつく豆知識ばかりを。一体何が目的なんだろうか、この男は。

そんなある日、僕は久々に雅臣と会った。最近異常に疎遠だったため、まともに話したのは随分前だった。

「あのさ、最近、リンヤさんとつるんでるんだってな。」

「・・・っ、違うよ、あの人がしつこくしてくるから・・・」

「いや、分かってるよ。あいつ、ヤバキャラって言われてんだろ。それな、別に暴力とか、そういうんじゃねぇんだ。・・・あの人は・・・コミュニケーションで、人と人のつながりを強化するって、本当に信じてるんだ。馬鹿だよな、情報屋とか言っちゃって、人に話しかける口実なんだぜ。そうやって、近所のじいちゃんやばあちゃん、気のいいオッサンやお節介なオバサン、うるさい女子高生や生意気なガキまで、いろいろ話しかけてまわってさ・・・だから、『ヤバイぐらい面倒』なんだ。そういう、理想論振りかざしちゃって」

僕は、もう一度「町の情報屋さん」に会いたくなって、ブクロへ駆け出した。そこで知ったのは、リンヤさんはついに争島静男に殺られてしまった、ということだった。「話せばだれとでも分かり合える」なんて、馬鹿なこと考えてたから。

僕は今、彼の意思をついで情報屋になっている。スマホの連絡帳には、有力者の名前がずらりと並ぶ。僕はブクロで、いかにも上京したてと見える初々しい坊主を見つけ、口の端を吊り上げた。 「よぉ、ブクロは初めてか?―いい情報あるんだけど、どう?自分の身を守るため、のな」

そう、ブクロはヤバイ奴らばっかりだから。

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